問われるデイケアの新しい形

――地域精神医療・障害福祉の市場化・多機能化

日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科長 教授
日本デイケア学会 副理事長
精神保健福祉士
古屋 龍太氏

■診療報酬の減算化が進むデイケア

――かつての精神科デイケアは居場所的な空間が多く、プログラムもレクリエーション的なものが中心でした。近年、デイケアでの治療面が注目されるようになってきていると思いますが、デイケアのこうした変化をどう捉えていますか。

デイケアは、精神科病院におけるリハビリテーションを進めるという目的のもと、昭和49(1974)年に診療報酬で点数化されました。以来、診療報酬改定の度に点数が上がり、全国に1,599ヵ所のデイケア施設などが開設されるまでになりました。

デイケアは、退院後の再入院を抑制し、利用者が地域で安定して過ごすために大きな役割を果たしてきました。デイケア・スタッフもそこに大きな意義や意味を見出してきたと思います。

その一方で、デイケアにおける治療効果やリハビリテーション効果についての評価が、現場サイドできちんとなされてきたかといえば、不十分であったと言わざるを得ません。その背景には、他の社会資源が不足しており、慢性期の生活支援を要する方が多数利用していたという外的要因もありますが、スタッフがデイケアに定着せず、総体としては治療・支援技術が未熟であったことも反省点としてあげられます。

デイケアは地域の暮らしにおけるステーション、憩いの場として定着するなか、平成18(2006)年に障害者自立支援法が施行され、障害者の「自立」をめざす施策が進み、地域に障害福祉サービスの事業所が開設されるようになりました。

平成20(2008)年に実施されたある調査では、デイケアの利用目的としては「生活リズムの維持」「再入院・再発防止」が1位・2位で、初回入所からの通算利用期間では1年未満は17.7%にとどまり、5年以上が42.7%を占め、終了理由の第1位は「再入院」で、実に47%を占めていました。それは、隔離収容入院政策を経てきた精神疾患患者の回復のむずかしさを表していますが、デイケアの利用者の安全と安心を確保できる「居場所」の追求にもつながっていました。長期入院から退院した方々は、戸惑いと大きなストレスを抱えながら地域で暮らすことになるため、「まず、無難に暮らせているだけで十分」という考え方が支配的で、結果的に漫然とデイケアに通う利用者を多く生み出したことも否めません。

平成21(2009)年に開催された国の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」では、この調査結果が供覧され「慢性期のデイケアによる治療効果のエビデンスは確立されていない」ことを踏まえて、「対象・利用期間・実施内容を明確にして機能を強化したデイケア等の整備を図ること」や「利用者が徐々に障害福祉サービスに移行できるよう充実を図るべき」「自立をより促す観点から、デイケア等の漫然とした長期にわたる頻回/長時間の利用については是正を図るべき」という方向性が打ち出されました。

平成25(2013)年には障害者自立支援法が障害者総合支援法に改正され、「自立」の方向がより明確に打ち出されると、このベクトルはさらに強まっていきました。

折悪しく平成27(2015)年7月には、福祉事務所と癒着した都内精神科クリニックグループによる、生活保護患者のデイナイトケアへの「囲い込み」事件が新聞・テレビで報道され、診療報酬改定の議論に甚大な影響を与えることとなりました。当時、報酬改定の要望のために日本デイケア学会の三役で厚生労働省(以下、厚労省)に行っても、「同クリニックの問題をどう考えるのか?」と問われ、逆風を痛感しました。日本精神神経科診療所協会や全国精神保健福祉会連合会(みんなネット)と共同で、各地のデイケアに呼びかけて署名運動を展開し、短期間で約4万筆の署名が集まりましたが、逆風を覆すことはできませんでした。

厚労省は、「診療報酬での対象は医療であり、治療効果が求められる。漫然とただ通わせて生活支援をしているだけでは医療とは呼べない」とし、平成28(2016)年度からデイケアの診療報酬の減算を打ち出しました。とくに、長期にわたって漫然と通っている方々に対して、利用日数の制限がかかるだけでなく、長期利用者の割合によって報酬が減算されるなど、診療報酬上での制限がかかりました。

その一方で、新たに開設された障害福祉サービスの事業所は、自立支援を積極的に展開し、就労への移行を全面的に掲げるようになりました。厚労省も障害福祉サービス報酬で一定の収益を確保できる経済誘導を図り、株式会社など民間営利法人が続々と参入してくるようになりました。かつて就労系の事業所の設立母体は、社会福祉法人やNPO法人がほとんどでしたが、現在では過半数が企業立になってきています。

企業立は、当然のことながら営利を追求します。一定の営業実績をあげることを優先します。厚労省も就労移行の実績に基づいて報酬額の加算・減算を打ち出し、さらに移行支援などを進める企業立が増えてきました。いまでは大都市部を中心に、障害福祉サービス事業所に通う当事者の数が、精神科デイケアを大きく上回る地域も増えてきています。新自由主義的社会保障政策のなかで、公的財源の分配をめぐって、いよいよ医療と福祉の競争の時代がはじまったと考えています。

初出:『精神科医療ガイド2019』NOVA出版 2019.1より