地域における多機能型精神科診療所の実践

医療法人社団 草思会 錦糸町クボタクリニック クボタクリニック 理事長
社会福祉法人 おいてけ堀協会 理事長
日本多機能型精神科診療所研究会 代表世話人
精神科医
窪田 彰氏

■デイケアのはじまりから広がりへ

――デイケアのはじまりと、先生とデイケアの出合いを教えていただけますでしょうか。

昭和49(1974)年、診療報酬制度に精神科デイケアが点数化されました。この年にわたしは精神科医になりました。思ったのは、かなり時代的に早いという印象でした。欧米のデイケアを見習って日本に導入しようとしたわけですが、当時の医療機関にも、社会的状況としても実施する環境がまだ整っていなかったと思います。

制度的には施設基準が厳しく、診療点数も低く、その結果、公的医療機関しか実施できない限定的なものになり、制度はできたものの民間の現場では使えなかったのです。

わたしが当クリニックを開院する前は、都立墨東病院の精神科救急で働いていました。当時、救急から回復して地域に帰った人たちにデイケアのような施設がなければ、支援するのはむずかしいという現実がありました。そこでわたしたちはデイケアができない代わりに、退院後に引きこもっている方たちが自由に集まれるためのクラブハウス「友の家」をつくろうと考え、関係者や患者さんに声かけをし、皆さんから寄付を集めて街に部屋を借りたのです。

その後、墨東病院を退職して、昭和61(1986)年に当クリニックを開院、デイケアを実施したいと東京都に申し出たところ、その件は厚生労働省(以下、厚労省)に聞いてくださいといわれ、問い合わせると、「そもそも診療所(クリニック)でデイケアを実施することは想定していない」といわれました。

わたしは、地域の精神科診療所にこそデイケアは必要であるという強い思いから、関係者に働きかけを行い、その結果、関係各所が動き出すことになり、昭和63(1988)年の診療報酬改定で大規模デイケアと小規模デイケアの枠が生まれ、施設基準も緩和され、クリニックのデイケア実施が認められるということになりました。非常に幸運だったと思っています。このときから全国にデイケアが増えてきました。

――デイケアをはじめてみていかがでしたでしょうか。

昭和63(1988)年に制度的にも認可され、いざデイケアを実施しようとしたところ、既存のテナントビルでは無理があることに気づいたのです。なぜかというと、デイケアは医療機関内になければならないのです。そこで別に広いスペースが必要になり、小さなビルを2年かけて新築することにしました。これが日本で最初に新築したデイケア型クリニックとなったと思います。

デイケアをしてよかったことの一つは、いままで、外来診療だけならば、数人のスタッフで成り立っていたのが、デイケアを実施するためには、看護師や精神保健福祉士、臨床心理士等のコメディカルスタッフが必要になり、多職種のスタッフが加わることで、自然と「チーム医療」へと変化していったことです。

「チーム医療」としてのデイケアの延長線上で地域生活支援や就労支援等、いろいろな相談を受け付けるようになりました。それは、コメディカルによるケアのはじまりであり、まさにチーム医療の基本構造になりました。そこから派生してきたのが、デイケア部門と外来部門の連携づくりということでした。そのため、スタッフには、週一日は、デイケア勤務から外来への勤務とし、その逆に外来からスタッフが週に一日はデイケアへ勤務することにしました。このことで、お互いの現場の理解を深めることができ、デイケア部門と外来部門がうまく連携していくようになりました。

スタッフの連携が良好になると、各スタッフのコミニケーションが円滑になり、たとえばデイケアスタッフが一日のデイケア終了後に、地域で支援が必要な患者さんを訪ねることができる「訪問看護」にも行けるようになりました。

デイケアという通所サービスから、訪問看護、往診などのアウトリーチへとつながりが広がっていくことで、多様な支援活動が増えました。

――患者さんがデイケアに来ることの基本的意味を教えてください。

デイケアが何のために必要かというと、精神障害から回復しようとする患者さんたちは、なかなか人との関係をつくりにくいということが多いという背景があると思います。

被害妄想がある患者さんですと、他人が怖いわけです。他人が自分の悪口を言っていたとか、いやな目でじろじろみていたというような妄想にとらわれています。患者さんたちは、薬物治療やさまざまな支援を受けながら妄想が消えてやっと安心して暮らせるようになったとしても、他人と一緒にいるのが怖いということが根に残っており、回復したから仕事に行こうといっても適応できないでいることが多いわけです。

リハビリテーションの最初は、他人といること、他人と一緒に何かをすることが楽しい、面白いんだということを体験してもらうことです。患者さんすべてがそう考えているわけではなく、他人と接するのがいやだなぁと思っている患者さんもいるわけです。その方たちが、他人と何かをすることは楽しいという気持ちをもてれば、仕事ができるようになるかもしれないと思うのです。

社会のなかで幸せに生きていくには、いろいろな人の応援を受けなくてはならないし、人とのかかわりあいのなかで人生の幸せを感じたりする必要があるわけです。精神障害をもつ方が、人間関係から幸せを体感できるということが、とても重要な人生の条件だと思うのです。そういう体験をしてもらうための入り口としてあるのがデイケアです。

外来治療や入院治療を受けて、辛い思いからやっと立ち直ってきた患者さんたちに、次のステップとしてどうするか、それは人間関係を取り戻していくことだろうと思います。

――デイケアへの参加を促す働きかけについてはいかがでしょうか。

病状が一定程度回復してきた患者さんに対して、次のステップとして、「他人といられるような練習をしませんか、そのためにはデイケアという場がありますよ」とお薦めするのですが、7、8割以上の高い確率で、患者さんには断られます。「自分はその必要はないです」「他人と一緒にいるのがいやです」という感じで、すすんで参加する患者さんはほとんどいません。

たとえばこれが歯医者さんだったら事情が違いますよね。歯が痛ければすぐ治療してくださいとなります。でも心に問題を抱えている患者さんにとっては、他人といられるようになることが大切なことを理解していたとしても、人間関係への不安が強く、自信がもてないなどの理由から、デイケアにさえ躊躇することが多くなります。

わたしたちはそういうときに、一度断られても懲りずに何度も勧誘するわけです。そうしないと、患者さんは外来診療には来るものの、「家ではどうしているの?」と聞くと、「テレビみてゴロゴロして、あとはゲームをやっている」という生活になっている方がかなりいるのです。そういう方たちに、もうちょっと幸せな体験をしてもらうために、「他人といることが楽しめるような力を身につけることが大事ですから来ませんか」と声かけをして、パンフレットなどを渡してお誘いするように努め、プログラムにも工夫をしています。

初出:『精神科医療ガイド2019』NOVA出版 2019.1より