「重度認知症患者デイケア」の現状と課題

一般社団法人 日本精神科看護協会 京都研修センター長
看護師
松岡 義明氏

■重度認知症患者デイケアの現状

――認知症の方が通所するデイケアにはいくつか種類がありますが、わかりやすく教えていただけますでしょうか。

現在、医療保険で利用できるデイケアは、診療報酬上大きく2種類存在しています。一つは「精神科デイケア」ともう一つは「重度認知症患者デイケア」です。また、介護保険においても、「デイケア(通所リハビリテーション)」と「デイサービス(通所介護)」の2種類があります。

もちろん認知症の方は、医療保険のデイケアをはじめ、介護保険のデイケア、デイサービスも利用することができます。それぞれのサービスを利用するための方法や利用目的には違いはあるものの、実際にサービスを受けるケア内容の違いについては、利用者側にとってもわかりづらくなっているのではないでしょうか。

まず、利用方法の大きな違いとして、医療保険下でのデイケアでは、認知症状を有する何らかの認知症診断が必要となり、精神科医の受診が必須となっています。しかし現状は、精神科へのイメージや偏見が壁となり、受診に対して消極的になることで、正しい認知症の診断を受ける機会がなく、結果、利用に結びつかないことも少なくありません。一方、利用開始となると、精神科医をはじめ、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、心理士等の医療スタッフによる認知症のさまざまな医療・ケアを受けることが可能となります。

介護保険下での利用方法については、まず介護認定が必要であり、本人や家族の意向をもとに、ケアマネージャーがケアプランを作成し、利用開始となります。

――認知症や重度認知症患者デイケア(以下、デイケア)の啓発活動や地域包括ケアシステムでのデイケアの位置づけについていかがでしょうか。

認知症になっても住み慣れた地域で、医療もしくは福祉サービスを利用しながらでも暮らしつづけることが理想ですが、残念ながら「徘徊が出てきて自宅での介護がむずかしくなった」、あるいは「暴力をふるうようになった」とBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に対する介護に疲弊した状態で、精神科の認知症治療病棟に入院することも少なくありません。入院後、BPSDが落ち着いて退院できる状態になったとしても、家族からは、「落ち着いたとはいえ入院前の状態がまた起きるのではないか」という不安で、「何とか入院をつづけてもらえませんか」と懇願され、入院が長期化していくこともみうけられます。このことは、受診の遅れ→家族の介護疲れ→入院→入院の長期化となり負のスパイラルに陥ります。

本来であれば、もの忘れがひどくなったり、記憶が怪しくなった時点で、本人や家族が、もの忘れ外来等を受診し、精神科医の診断のもと、適切な治療やかかわりが行えることにより、デイケアなどに通いながら在宅で暮らしつづけることができるようになります。家族が認知症に気づいて専門医へ受診するまでには、平均で約2年もかかるといわれています。他の疾患に比べるとその差は歴然で、その間に認知症状が進むと同時に、その方への適切なかかわりができず、本人にとっても家族にとっても厳しい状況がつづきます。

 

認知症においても、早期発見や予防がいかに大切かということを多くの方に理解していただきたいと思っています。

では、なぜうまく受診につなげることができないのか。一つは、地域社会の認知症の人に対する理解不足があげられるのではないでしょうか。認知症にはなりたくない、もしくはわたしがなるはずがないと思っている人はまだまだ多いのではないでしょうか。「認知症にならないためにどうすればいいのか」という予防としての啓発活動が盛んに行われていますが、反面、「認知症にはなりたくない」というネガティブな感情も生み出されてきているようにも感じます。そのことで、認知症の症状を疑いながらも、認めない、まだまだ大丈夫だといった意識が先走り、認知症であることを隠したいという心理も理解できます。

とはいえ、「年とってきたから、このくらいはしょうがいない」と思える範囲ならいいのですが、その間、症状が進み、覚えていなければならないことを忘れるということが頻発してくると、患者さん自身ももの忘れをしていることを自覚してくるようになり、それに気づいている家族もどんどん辛くなってきます。さらに、日常生活に支障をきたすようになり、どうすることもできない状態になってから、家族が介護に疲弊しきって精神科病院を訪れることも少なくありません。

このことを考えると、認知症状の出現から受診に至るまでの期間を短くし、いかに医療がきちんとケアできる状態に早期に結びつけていくかが重要だと考えます。そのためにも、地域包括ケアシステムのなかで、医療、保健、福祉が連携を強化し、認知症の方々の暮らしを地域で支えていくことが求められているのではないでしょうか。

一方、認知症の進行を抑えるための治療薬はありますが、認知症の根本的な治療薬は残念ながらなく、認知症状を改善することはできても完治することは、いまの医療ではできません。だからこそ、認知症になっても、その人がその人らしく暮らしつづけるという安心感をもっていただける場として、デイケアをより知っていただくことが必要だと、わたしは思います。

初出:『精神科医療ガイド2019』NOVA出版 2019.1より