発達障害児・者の育ちを支える家族支援

学校法人立正大学学園 理事
心理学部 教授
中田洋二郎氏

――まず、先生はなぜ心理学を学ばれたんですか?

もともと大学では文学部のなかの社会学を専攻していました。3年生のときに専攻がえができたことから、心理学にかえたんです。その理由は、精神分析とかに興味があったので、そういうことを学ぶなら心理学かなと思い勉強をはじめたんですが、実際は医学の教育も同じで、心理学でも実験心理学や、統計の勉強などの基礎的なことが主なわけです。基礎教育といわれるものは、いってはなんですがつまらないんです。つまり、臨床心理学をとくに大学のときに学べたわけではないんですよ。

もうちょっと臨床の場で精神分析などをやりたいと思っていたころに、自閉症の子どものボランティア活動に参加する機会にめぐりあったんです。まだ当時(昭和40年代中ごろ)は、自閉症の子どものことがあまり知られていない時期で、「日本自閉症協会」(平成27年4月1日に一般社団法人へ移行)の母体となる「自閉症児親の会」(昭和42年2月)が発足したばかりでしたが、その発足二年目くらいでしたか、会の総会があったとき、期間中に参加者の子どもを預けるところがないということから、自閉症の子どものベビーシッターをすることになったんです。その子どもと半日ほど接していて、障害とは思えない特異な才能がこの子にはあるんだとも思ったんです。

その子をとおして、脳機能はどうなっているんだろう、頭のなか、こころってどうなっているんだろうっていう純粋な興味がわいたんです。だから、援助とか臨床的な発想からではなく、人間の思考とか認知の不思議さから、障害があるといわれる子どもについて知りたいと思ったんです。

――なぜ障害者支援、そして家族支援を考えられたのですか?

大学院時代には、障害の子どもの家庭教師などをやったりして、その後、心理職として、精神薄弱児通園施設に勤めるようになりました。支援的なことに目覚めたのはそこからです。

知的な障害をもつ子どもは、知能が低いといわれているんですけど、一緒に生活してみるといろいろな才能をもっている子たちがいて、人として非常に魅力的なんです。そういう子どもたちが、社会的にも適応しやすいようになっていくことを考えると、障害があってダメといわれた子を引き上げていくっていう発想ではなくて、むしろこんなに魅力的な子が社会のなかでもっと認められていいんじゃないかと思ったんです。そこから、子どもの発達支援に強く興味をもったんです。

「家族支援」へのきっかけは、昭和52年に開始された「1歳半健診」の研究と地域支援という形で発達相談員として携わったことからなんです。

そのときのわたしは、各地域の市町村の乳幼児健診で軽度の障害をもつ子どもに、いかに早く気づいてあげられるかが主な仕事でした。わたしは、発達心理学なども学んでいましたし、週に1回、乳児院に行って、子どもと遊んだりしながら観察もしていたことが役立ち、保健師さんなどが見逃してしまうような軽度の障害の子どもをみつけられるようになっていきました。

当時はまだ「障害の発見」が中心の支援ということもあり、そのあとの「療育」への支援がなかったんです。3歳児までは療育施設に入れない時代でしたので、そこにつながるまでの1年半くらいの間、発達相談という形でフォローしなければならなかったんです。でもフォローしていっても、親ごさんは、自分の子どもを障害とは思っていなくて、「言葉がでたんだ(発語した)からもういいじゃないか」と思ってしまうと発達相談に来なくなるんです。そういう親ごさんにも障害があると伝えていかなければなりませんでした。

発達相談のなかで適切な説明やアドバイスをつづけていくと、徐々にですが親ごさんも、自分の子どもが普通の発達をしていないのでは、と気づきはじめるんです。そうするとしんどくなって、負担になって、せっかく支援と連携との関係ができつつあったのに、相談に来なくなるっていう事例がいくつかあったんです。

当然、障害があろうとなかろうと、親は自分の子どもの成長を望んでいるものと思っていたので、発達支援が主な目的のなかで、途中で関係が切れてしまうのはなぜだろうと考えました。そして気づいたのは、親であっても、すぐに障害のある子どもの支援者になるわけではなくて、まずは「きっと子どもの成長は追いつくんだ」と思いたいわけです。それが「追いつかないんだ」ということが確信めいてきたときに中断につながるんだと思ったんです。「きっと治るんだ」というような親としての正直な気持ちを、まず支援側が受けとめることが大事なんだということに気づかされました。

このことが、『親を親として育てる』というわたし自身の最初のテーマになりました。子どもの発達支援の前に、しっかりと家族支援を考えていかなければいけないんだと、それが「家族支援」の出発点になったんです。

その後、家族は障害に対してどういう認識をするのか、「障害受容」とは家族にとってどういう意味があるんだろうかなど、家族支援について、臨床をふまえた研究として整理しはじめたんです。

初出:『精神科医療ガイド2018』NOVA出版 2018.1より