患者さんやご家族の看護ニーズを読み解く

〜「デスカンファレンス」からの学び〜

社会医療法人加納岩 日下部記念病院
副看護部長

渥美 一恵氏

――日下部記念病院ではデスカンファレンスに取り組まれているそうですね。

デスカンファレンスを実施するようになったのは、2011年からのことです。きっかけは、2007年に当院でも運用が開始されたDNR (Do Not Resuscitate:蘇生措置拒否)ガイドラインに基づく患者さんの看取りで看護師がどのような手応えを感じ、課題は何かを把握するために行ったアンケートです。DNRは、入院中に心肺停止などになった場合、蘇生措置を行うかどうかの意思表示を患者さん自身やそのご家族にあらかじめ書面でご提示いただくものですが、当院の身体合併症病棟では年間に40例ほどの患者さんたちが亡くなっていることもあって、このアンケートには、看護師が終末期医療の際に抱く思いを日々の看護に生かしていこうとする狙いもありました。

アンケート調査を実施してわかってきたことは、たとえ終末期に対する意思こそ示されていても、「もっと何かできることがあったのではないか」という思いをもつ看護師がいて、ご家族と十分なコミュニケーションが取れなかったことに後悔の念を抱いている声でした。

デスカンファレンスは、看護師のそうした思いや家族とのかかわりを率直に語りあえる機会が必要だと考えて導入することになりました。2017年8月からは、POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)に変更し、終末期ケアにおいて「その患者にとって最もふさわしい医療・ケア」をともに考え、適切な医療の意思決定プロセスを確保するためのシステムとして導入しました。

――デスカンファレンスではどのようなことが話しあわれているのですか?

当初はやはり、褥瘡や食事、治療に関する議題が中心でした。ただ、デスカンファレンスを重ねるなかで看護師たちからは、患者さんたちを「生活者」としてとらえるケアにあまり焦点があてられていないという意見も出てきたため、終末期におけるカンファレンスの重要性も検討されていくようになりました。そこで当院では、2014年からオリジナルの「終末期ケアカンファレンスシート」を作成し、主治医や担当看護師を中心とする多職種で治療やケアの検討、それらの明確化、そして実施と評価を行いはじめました。

終末期ケアカンファレンスでも患者さんとご家族の関係については意見が多く出され、ふだんからなるべく連絡をとっておく重要性を共有できました。

患者さんが終末期に入ると、それまで疎遠だったご家族も面会に訪れてくれるようになり、ずっと語られることがなかったご家族の思いを打ち明けられる機会も増えていきます。認知症の患者さんたちを含め、精神科の病院に入院される患者さんとご家族とのあいだにはさまざまな葛藤があって、疎遠になってしまうケースさえ少なくありません。こうした葛藤によってご家族が患者さんの最期を看取れず、孤独な死を迎える患者さんもいます。病院で亡くなる患者さんたちに対して看護師は何ができるのか。これらの問題を考えていくうえでもデスカンファレンスや終末期ケアカンファレンスには大きな意味があると思っています。

――それらのカンファレンスによってみられるようになってきた変化を具体的に教えてください。

看護師がより積極的にご家族たちに働きかけるようになったことです。わたしたち精神科の看護師が日常的にみているカルテには、病気の影響による患者さんの暴言や暴力に悩まされてきたご家族の事情なども書き込まれ、患者さんの言動によって娘さんの結婚が破談になったというようなケースもありますが、カルテのこうした記述にとらわれすぎてしまうと、病棟での接し方にも影響を与え、「これだけたいへんな思いをされてきたご家族なのだから面会には来られない」といったような思い込みまで同時に刷り込まれていってしまいます。DNRが示されている場合でも事情はほぼ同じで、いよいよとなった患者さんに対して「あらかじめ意思が示されているのだから、救命措置はしなくてもいい」という言葉が当たり前のように聞かれ、「何かしておかなければ」といった意識までうすれてしまっていたように思います。しかし、看護とはそういうものではありません。患者さんが実際に亡くなってから後悔するよりは、できるときにできるだけのことをやっておく。デスカンファレンスや終末期ケアカンファレンスでのふり返りによって看護師の意識がかわり、ご家族との関係についても現状ではどうなっているのか、積極的に確認するようになりました。

――長期入院の場合、ご家族の構成やその思いが時間の経過でかわっていることも考えられますね。

妄想の影響で攻撃性がつよくなっていたある患者さんの奥さまは、「怖くて面会に行けなかった」とおっしゃるいっぽうで、「面会に長く行けなかったから、行きづらくなっていた。連絡をもらってほっとした」と話していて、それまでの印象とはずいんぶん違う反応が返ってきました。ご家族のなかには、「自分たちが本人を病院に押し込めた」といううしろめたさを感じておられる方々もいます。こうした方々の思いを看護師が丁寧に聞きとり、終末期にある患者さんの状態をやはり丁寧に説明していき、看取りに立ち会っていただくことも看護師の大切な役割だと思います。これはご家族の「うしろめたさ」をやわらげるだけでなく、看護師の後悔も軽減してくれます。

患者さんが亡くなってから行われるデスカンファレンスのみでは反省点の検証しかできませんが、終末期ケアカンファレンスをあわせて行っていくことで患者さんやそのご家族のニーズに沿った看護が実践できるようになりました。

初出:『精神科医療ガイド2018』NOVA出版 2018.1より