「家族心理教育」

~モデルケース:国府台式家族心理教育~

メンタルヘルス診療所 しっぽふぁーれ 院長
伊藤 順一郎氏

精神科医療の家族支援に思うこと

――まず素朴な質問なのですが、なぜ精神科医になられたのですか?

大学時代の友達や先輩に精神科医療に興味をもっている人が多かったからでしょうか。医学部の5~6年生くらいのときに関心をもち、病院見学などで現場をみたり、精神科医療の勉強をして、日本の精神科医療は、長期入院や閉鎖病棟処遇が中心で、リハビリテ―ションについて遅れているなと感じました。

――精神科医をつづけられて精神科医療は変化してきたと思われますか?

精神科医になったのが1980年ですからもう37年になります。最近、ベッド数が減少傾向にあるといわれていますが、まだ日本は人口の比率に対してベッド数が多く、入院日数も長い。入院中心の精神科医療はなかなか変えがたいなぁと感じています。少しずつよくなっているとは思いますが、根本的な発想の転換はなかなかなしえていないのではとも思います。

まず、精神疾患を治療することは、精神科病院にむりやりにでも入院させることだという思いこみが、医療者にも、政治家にも、国民にもあり、その思いこみを拭い去れないでいることが大きいのではないでしょうか。そのことが、隔離して、身体拘束をしてもしかたがないという感覚にもつながります。それを払拭できないうちは大きく変えるような施策をふくめたチェンジ(意識改革)ができないのではと考えています。

――精神科医療として日本と欧米との文化(感覚)の違いはなんでしょうか?

欧米の「個」という考え方に対して、日本は個ではなく「家族」に責任をもたせるということが江戸時代の頃からあったと思います。

近代以前は、患者さんを座敷牢に入れておくというようなこともあり、それは強いていえば精神障害をもった人に対しての家族の責任のもち方の一つとされていました。また、現在でも、強制入院が家族の同意によって行われます。

一方、欧米だと、たとえ精神疾患をもっていても、18歳を過ぎたら1人で暮らすのがあたりまえと考えられているようです。家族であっても、それぞれの個人としての権限が尊重される。そのような文化が、たとえば、イギリスのケアラー法※などの背景にはあるように思います。強制入院でも、国によっては裁判所がかかわって、人権を拘束してもいいと認めた場合にのみ許されます。強制入院の要件を医師が診断する場合も、複数の医師が必ずかかわらければいけない国が多いようです。日本では、家族の同意があると、精神保健指定医1名の診断で強制入院ができてしまいます。そういう意味では家族にも強い権限を与えているといえます。その強い権限と裏腹の責任のあり方として、平成26年4月の保護者制度廃止までは、患者さんが社会的な問題を起こした場合、家族の監督責任が問われるということにもなっていました。いずれにしても家族の負担が大きいのが日本の特徴といえます。

※ケアラーとは、無償の介護者を意味する。英国では、家族だけにとどまらず、友人や法的な婚姻関係を結んでいないパートナーなども含まれる。また、成人だけではなく、親や祖父母、きょうだいの世話をしている未成年の子も「ヤングケアラー」として支援対象になります。

――家族支援の歴史の流れについてお聞かせください。

日本における、統合失調症患者さんの家族に対する支援は、まだ歴史が浅いです。戦後、精神衛生法になり、治療の大半は「精神病院」のなかで行われ、当時の精神衛生法のなかで、家族に「保護義務者」としての規定が設けられ、監督義務及び「介護者」としての役割が明確に求められていました。しかし、家族そのものに対する支援はほとんど存在していませんでした。そんななかで、家族同居率は8割を超え、その多くの介護者が日本の親やきょうだいという文化的な特徴をもちながらも、家族たちは支援のないまま「患者の介護を行うのが当たり前」の存在として、長い間ありつづけてきました。

家族支援として先にはじまったのは家族の相互支援(家族会)でした。昭和39年、家族会という家族の自助組織として「全国精神障害者家族会連合会(全家連)」が全国組織として発足し、全家連を通じた「家族会」運動のなかで、家族の困難な状況が具体的な声となり、地域や病院の家族会が、保健師やソーシャルワーカーの支援を受けながら、定着してきました。とはいえ、当時、それらの活動を保証する制度はなく、家族自身の負担として、家族は患者さんのために尽くしていました。

時が移り、精神衛生法は、精神保健法、そして精神保健福祉法となり、精神障害をもつ人々の地域における福祉はようやく福祉スタッフの手にゆだねられるようになりました。また平成11年には、家族の自傷他害防止監督義務が廃止され、保護義務者は保護者と名称を変え、そして平成26年4月、保護者の責務規定が廃止され、精神保健福祉法のなかの家族の義務規定は姿を消しました。これらの歴史的な流れがあったものの、家族の負担と孤立した状況はいまだ解消されていないように感じます。臨床の現場では、家族支援が統合失調症の治療やケアにおいて、大変有効であり、かつ重要な取り組みであることが明らかにされているものの、家族支援としての現状はいまだこころもとないといえます。

初出:『精神科医療ガイド2018』NOVA出版 2018.1より