医療ばかりではなく「みんな」で 支えあえる社会を実現したい

公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会 理事長
本條 義和氏

――「みんなねっと」という愛称でも呼ばれる「公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会」とはどんな団体ですか?

当会は、精神疾患をもつ子どもや配偶者、あるいは親といった身内がいるご家族によって2006年11月に設立された団体です。2017年7月末時点での個人会員は3,731名、団体会員は7,989名を数えます。国内の各地には、独自に活動を行う「家族会」が1,200(会員数約3万人)ほどあり、個々の家族会は家族同士が互いに支えあう「セルフ・ヘルプ・グループ」という位置づけになりますが、都道府県ごとに連合会も結成されていて、当会はそうした家族会や連合会の全国連合組織です。

当会ではこれまでに、交通運賃の割引を求める署名活動にくわえ、医療・保健・福祉などに関する施策の充実を図る目的で国や行政などにさまざまな働きかけを行ってきました。

これらの活動はひとえに、精神障害をもつご本人はもちろんのこと、そのご家族が差別を受けたり、偏見の目で見られたりすることなく、孤立せずに安心して暮らしていける社会の実現に向けて行われてきたものです。

――本條理事長ご自身はどのような理由で家族会の活動に参加なさるようになったのですか?

精神障害者の方々が利用する作業所の運営を手伝ってほしいとかねてからの知りあいだった方から18年ほど前に頼まれ、わたしの母や姉が長く統合失調症を患っていたこともあり、何かお役に立てることがあるなら、という理由でこのお話を引き受けさてもらったのが家族会とかかわるようになったきっかけです。

母は戦後の混乱期に病気を発症したらしく、わたしは「健常者の母親」というものを知らずに育ち、いまでこそ各地の家族会や「みんなねっと」の知名度もあがってきましたが、作業所の運営を任されるまでは家族会の存在さえ知りませんでした。

ただ、母の影響もあって人間の尊厳や権利について深く考えさせられる機会は多かったと思います。いまでは「みんなねっと」の理事長を務めさせていただいているほか、精神障害をもつ方々の就労を支援する「NPO法人はりま福祉会」や「ひょうご障害者福祉協同組合」の理事長なども兼務しています。

――精神疾患が疑われる方々は、医療につながるまでかなり長い時間を要するといいます。「家族支援」はいつから必要だとお感じですか?

精神疾患もほかの病気と同じく、早期発見や早期治療がその後の回復を左右すると思います。しかし、精神疾患にかぎっては、早期の治療だけが重要なのではなく、できるだけ早い段階での支援が社会参加や社会復帰の時期にも影響してくると考えています。

というのも、最近ではインターネットの普及によって精神疾患の情報も集めやすくなっているようですが、同時に間違った情報や偏見、あるいは、差別的な言動にふれる機会も多く、そうした情報にふれてしまったご本人やそのご家族は外に支援を求められず、むしろ孤立してしまう可能性すらあります。なおかつ、精神疾患が疑われる段階でいきなり子どもや配偶者を精神科や心療内科に受診させるご家族は少なく、まずかかりつけの内科クリニックなどに連れて行くことがほとんどだと思います。内科医の診察を受けても、身体的な異常はとくに認められず、どう対応すべきかわからないまま時間だけがすぎていってしまうことさえ希ではありません。学校や勤め先に行けなくなったとか、夜になっても眠れなくなったというような場合は、内科医が精神科や心療内科への受診をすすめたり、お子さんであれば、学校でも相談ができたりするような支援体制が必要になってくるのだと思います。

――行政の支援機関に保健所があります。

精神疾患なのかどうかはっきりしない段階で保健所に相談するご家族がどれだけいるか疑問です。おそらく支援が受けられることを知らない人のほうが多いのではないでしょうか。最近では保健所の数も減り、かつてにくらべると利用しにくいと感じる人も増えてきていると思います。保健所に代わって相談支援機能をもつようになった相談支援事業者に足を運ぶ方がいたとしても、そこでは作業所などの福祉施設を紹介する「計画相談」に終始してしまうことが多く、ほんとうに必要な支援に結びつく可能性は低くなっています。以前にくらべると、保健所が担っていた役割は確実に後退しています。相談者の自宅まで出向くような支援をできれば取り戻してほしいところです。そうした支援があれば、より個別的な支援が可能になり、必要に応じて医療機関につなぐ支援もしてくれるのかもしれません。しかし精神疾患はご本人に病識がないケースが多く、病気の早期発見や早期支援については課題が多いことも事実です。

――地域によってはACT(Assertive Com-munity Treatment:包括的地域生活支援プログラム)が実践されています。

精神科医の往診も含めたアウトリーチが必要であることは、当会としても国や行政に要望を伝えていますが、診療報酬の問題もあってなかなか実を結んでいません。とくに、統合失調症などの精神疾患が発症してしまう一歩手前の「予防」に関しては支援体制が整っているとはいえず、アウトリーチによって医療につながった人はかなり限定的だと思います。また、引きこもりや不登校の状態にある人たちが必ずしも医療の助けを必要としているとはかぎらないので、ご本人ばかりかご家族も気軽に行けて相談できるところが地域にあれば、急性期の症状を経験せずにすませられる人たちも少なからずいるはずです。

このように考えていくと、引きこもりや不登校の状態にあるご本人とご家族がどのようにコミュニケーションを図っていけばいいのか、または問題だと感じる言動にはどう対処していけばいいのか学ばせてくれる支援があってほしいですね。当会が京都ノートルダム女子大学の佐藤純先生たちと普及活動を行っている「英国メリデン版訪問型家族支援」は、そうした支援のかたちのひとつです。

――やはり訪問を含めた個別的な支援が必要なのですね。

地域の保健所が担ってきた訪問型の支援では、精神疾患が疑われる人と会えない場合もご家族からの相談に時間を割いてその後の支援策について話しあってくれたので、日本にはたいへん優れた個別支援制度があったわけですが、精神保健を担当する職員の数は以前から不足気味で、保健所自体の数が減ってしまったこともあって、これからは新しい仕組みや考え方を日本に普及させていかなければなりません。どうしても治療を受けなければならない方は医療から支援を受けることになりますが、できれば医療に頼るばかりの支援ではなく、精神疾患を発症してしまう前に受けられる支援がもっと充実していってほしいと思いますし、入院医療から地域での医療支援にシフトしていかなければならないとも思っています。入院治療だけが精神科医療なのではありません。

引きこもりや不登校の状態にある子どもをもつご家族は、とても大きな不安を抱えているため、EE(Expressed Emotion:感情表出)が高くなってしまう傾向にあり、それが子どもの精神状態に悪い影響を与えてしまう可能性も指摘されています。医療につながる以前からEEを抑えられる方法が学べればこういった事態も減っていくでしょう。

初出:『精神科医療ガイド2018』NOVA出版 2018.1より