地域活動で支える若年認知症

若年認知症社会参加支援センタージョイント 所長 作業療法士
比留間 ちづ子氏

若年認知症について

65歳までに発症した人の認知症は、「若年認知症」と呼ばれています。若い世代でも認知症になることがここ数年でようやく知られてきました。高齢者の認知症は加齢によっておこります。原因としては、β蛋白(いわゆる老人斑)が脳にたまり、脳細胞が死滅して生じる、アルツハイマー型が一番多いのですが、小さな脳梗塞を繰り返しながら、脳機能の連携ができなくなって除々に進行することもあります。一方、若年認知症は、脳血管疾患型とアルツハイマー型が約3割ずつ、前頭側頭型とレビー小体型が各1割、その他、事故などによる頭部外傷後遺症や、アルコールを多量に飲みつづけたことによるもの、特定の治療薬の影響など、多様な病因が考えられています。

脳血管疾患型は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった病気によるもので、脳の損傷部位によって次のような特徴的な症状を伴うことが多くみられます。言葉の理解や発語ができなくなる失語、自分の手足を認識しなくなる身体失認、行為を順序正しく組み立てられなくなる失行、日常使う品物や図を見ただけでは判別ができなくなる視覚失認などの症状で、これらの出現によって生活行為に混乱をきたします。また、泣いたり怒ったりしやすくなるなど感情が不安定になりやすく、集中力もなくなります。

アルツハイマー型では、記憶をつかさどる海馬が萎縮し、最近の出来事を記憶できにくくなる記銘障害が特徴的ですが、それが著明にでる前から脳の異変は起きているといわれています。今日の日付がわからない、パソコンの操作で混乱する、書類が作成できない、料理の段取りが下手になる、進行すると、慣れた買い物先で迷子になる、自宅トイレの場所がわからない、またトイレの前に立ってもドアの位置がわからないなどの症状が起こります。しかし、通常の生活行動が支障なくできることも多いので、家族は認知症の発症に気付くのが遅れてしまいます。

レビー小体型では初期の段階で、物忘れよりも、知らない人がいる、遠くにいるはずの人が帰ってきている、何もない所に向かって話しかけたりするなど、幻視・幻覚と呼ばれる症状がみられ、精神疾患と間違われる場合があります。また、手がふるえたり、動きが遅くなるといったパーキンソン病のような症状もみられます。症状の程度が、一日のなかでも、めまぐるしく変動する場合もあります。

2009年の厚生労働省の若年性認知症の実態調査によると、患者数は全国で約3万7千人、認知症全体の約2%の割合を占めています。男性が女性よりも多く、発症時の平均年齢は51歳、早い人だと20代から発症し、40代以降は0.01%ですが5歳刻みで発症数がほぼ倍増します。男性の場合、脳血管性認知症の割合が多く、また、若いために脳の萎縮のスピードが早く、高齢の場合よりも認知症の進行は早いといわれています。

若年認知症患者が抱える問題

若年認知症は誰にでも起こりうる病気なのですが、認知症は高齢者に生じるものという観念が一般的に浸透し、認知症それ自体が、医療が扱う治療対象ではないとされてきたことも影響して、社会全体の理解も得られませんでした。物忘れがではじめ、仕事や生活に支障をきたすようになっても、まだまだ自分は若いという認識があるために、この年齢で認知症にはなるはずがないと思いこんで診察を受けるタイミングが遅れたり、病院で診察を受けても、うつ病や更年期障害などと誤診されて正確な診断までに長期間を経てしまうことが多くみられました。また、家のローンや子どもの教育費などの経済的な責任もあって、自分が病気のために負担をかけていることにいらだち、家族に当たっては自己嫌悪に陥り、うつ状態になって病状が進むこともあります。

このように、本人が何かしらの違和感を覚えるだけではなく、周囲や家族が異変に気づく頃には、すでに認知症が進んでいる場合が多いのです。それゆえに早期発見、早期治療を行い、症状の進行を少しでも遅くすることがとても重要です。違和感を覚えてから受診までの期間が平均1年以上ともいわれることから、近くにいる家族、会社の同僚、仲のよい友人などが早く異変に気づいて受診を勧めること、また、早期相談・検診のシステムを利用することが必要です。

2014年に行われた厚生労働省の委託調査によると、若年認知症を発症した人のおよそ8割が自主退職などで定年前に仕事を辞めています。再就職を望んでいても認知障害のため就労に結びつかず、経済的に行き詰まってしまうケースが多く、とても深刻な社会問題です。くわえて、若年認知症を診療できる医療施設が少ないうえに、リハビリを適切に行う制度もなく、特に若年認知症の相談窓口さえもなかったために、本人・家族を孤立させてしまう原因ともなっていました。

若年認知症の多くは、40〜50歳代に発症しています。この時期は、仕事でも重要なポジションを任されたりしていることが多く、症状に気づいて悩んでいたとしても、上司にも部下にも言いだせないというのが現状です。もし安心して相談できる社内システムやカウンセラー的役割も兼ねた作業療法士などの存在があれば、早期発見ができるとともに、早期治療によって症状を緩やかに推移させるための治療ができます。また、その間に、労働時間の調整や残存能力に応じた最適な配置転換などの職務内容を検討し、就労を継続させるシステムを構築できる可能性もあります。

さらに重要なのは、家族への支援の問題です。夜間に何かをずっと探し続けていたり、本人なりの目的があって時間を問わずに外出してしまうことが度々になると、家族は1日中、目が離せなくなります。あるいは、ふさぎ込み、悲嘆にくれて無感動の状況に陥ることが続くと、家族は仕事も生活もできなくなり、大きなストレスにさらされることになります。「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」(主任研究者 朝田隆 H18~20)によると、ご家族のうつは6割にものぼり、一家の年収も250万円以下が6割を占めるなど、経済的困窮の実態がうかがえます。

厚生労働省は、失職に対する支援策の一つとして、2002年に「職場適応援助者(ジョブコーチ)」事業を開始、2005年には「職場適応援助者助成金」が創設されました。また、65歳未満の若年認知症の人や家族を支援するため、「新オレンジプラン」の施策として、2016年度より全国の都道府県に「若年性認知症支援コーディネーター」を配置。医療・福祉・就労の関係機関とのつなぎ役として生活全般をサポートするとしています。当事者だけではなく、ご家族に対しても、障害年金などの制度面のアドバイスはもちろん、心身ともに健康な状態で本人と生活を送るための具体的な方策を提案したり、助言なども行うこととしています。

初出:『精神科医療ガイド2017』NOVA出版 2017.1より