認知症の患者さんやご家族にとっての医療を実現するための訪問診療

いなほクリニックグループ共同代表 医療法人社団みのり会理事
湘南いなほクリニック院長
横浜市立大学医学部臨床准教授

内門 大丈氏

『「ひとり」のためのメディカルチーム』として

2007年に高齢化率が21%を超え超高齢社会といわれているなか、2025年には認知症の発症者数が約700万人へ増大すると厚生労働省では推計しています。

湘南いなほクリニックでは、月曜日と木曜日に予約制の「もの忘れ外来」を開設し、在宅療養支援診療所として24時間・365日体制で診療にあたっています。医師は私にくわえて、常勤医として麻酔科医が1名、呼吸器内科医が1名の計3名、非常勤医師が22名、専門スタッフとしては、看護師が常勤2名、非常勤3名、臨床検査技師1名、臨床心理士1名、精神保健福祉士1名がいるほか、予約や往診スケジュールの管理、往診時に簡単なサポートをしてくれるメディカルスタッフが3名います。認知症や老年期精神疾患の在宅診療では身体的症状と精神症状を切り離して診療することができないという視点から、プライマリ・ケアの理念を重視(ほとんどの精神科医が日本プライマリ・ケア連合学会の認定医を取得)し、『「ひとり」のためのメディカルチーム』を実践するため、クリニック内の様々な専門分野の医師が協働して診療にあたっています。

訪問診療の対象としては、自宅のほか施設にも伺っています。私は主に自宅への訪問診療を行っていますが、クリニック全体としては施設への訪問診療が多くなっています。特に、自宅での診療では、最初「もの忘れ外来」に通院されていた方が、徐々に通院できなくなり、訪問診療への移行となった方が多くいらっしゃいます。

地域に根ざしたかかりつけ医としての在宅医療は開業医によって支えられていますが、認知症や老年期精神疾患に対応する在宅医療はまだ十分とはいえないのが現状だと思います。精神科を標榜している在宅療養支援診療所はほとんどなく、今後増加していく兆しもみえません。認知症の精神症状・行動障害に対する治療は、原則精神科病院での入院治療ではなく、本人にとってよい環境、たとえば本人の住み慣れた地域で行う必要があり、こういった意味でも、精神科医を中心とした当クリニックの訪問診療は大切な役割を担っていると思います。

認知症診療への道

私が横浜市立大学医学部を卒業した1996年には、認知症にはまだ「痴呆」という用語が使用されており、1996年11月にアリセプト®という抗認知症薬が米国でようやく承認された時期にあたります。2004年度より厚生労働省主導による研修医のスーパーローテートがはじまりましたが、当時は日本でローテート制度を採用していたのは横浜市立大学や自治医科大学など一部の医学部くらいでした。研修後は精神科医局への入局を選択しましたが、この当時に研修した内科・整形外科・麻酔科・救命救急などは、包括的に心身を診るということに役に立っていると感じています。

卒業後、伊豆逓信病院(現:NTT東日本伊豆病院)の精神科に2年間勤務し、はじめて認知症の診療をすることになりましたが、当時は抗認知症薬もなく(1999年12月にアリセプト®が日本で上市)、パーソンセンタードケアの概念も浸透していなかったため、手探りで患者さんの診療にあたっていました。

同病院の勤務を経て、横浜市立大学医学部の大学院へ進学。大学院で師事したのが、レビー小体型認知症を発見した小阪憲司先生でした。認知症の臨床から研究までが自分自身のフィールドとなり、卒院後はアメリカのメイヨクリニック・ジャクソンビル(Dennis W. Dickson先生の研究室)へ研究留学をすることになりました。同研究所では、毎週月曜日に臨床病理カンファレンスが開かれ、研究者だけでなく、メイヨクリニックの臨床医、臨床心理士なども参加して、臨床所見と病理所見を対比させながら活発な議論がなされていました。隔週の火曜日には、ラボミーティングが開かれ、研究員が現在進行中の研究の成果を発表する場が与えられ、金曜日にはブレインカッティングが行われていました。ここで培われた臨床病理学的な考え方により、患者さんを診療する切り口が増えたと感じています。臨床症状をみながら、今患者さんの脳のなかはどのような病理変化が起きているか思いを巡らすことができるのです。

帰国後は横浜舞岡病院へ勤務。同病院は、横浜市認知症高齢者緊急一時入院事業を受託しており、横浜市の認知症高齢者の医療的なセーフティーネットの一翼を担っていました。同院では、2週間以内の入院を行った後、治療方針を決定して地域生活に戻っていくようなサポートをしていました。

2008年より国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院に勤務。同院では神経科部長を務めるとともに、認知症の患者さんの精神症状にくわえて、他科の先生の協力を得ながら身体的な合併症も含めた治療に携わっていました。その後、平塚市にある湘南四之宮医院を継承して、同院でクリニックを開業してみてはとの話をいただきました。同院では、施設に入所している高齢者の在宅医療を中心に行っていましたが、認知症専門医が関わることによって、より良い医療サービスを提供できると考え、2011年に「湘南いなほクリニック」として新たなスタートを切り、在宅療養支援診療所にくわえて予約制の「もの忘れ外来」をはじめることにしました。

初出:『精神科医療ガイド2017』NOVA出版 2017.1より