障害者雇用の現状とその課題

埼玉県立大学 保健医療福祉学部 社会福祉子ども学科 教授
朝日 雅也氏

障害者の権利として

人間にとって仕事とは、生活の糧をえる手段であると同時に、働くことで多くの人と関係を結び、達成感や失敗体験などを共有しあう社会活動のひとつだということができます。社会活動へ参加する機会は、障害のあるなしにかかわりなく、求めることができる当然の権利です。

しかし、身体障害や知的障害、または精神障のある方々は、その障害ゆえに仕事に就くことをあきらめたり、あるいは、せっかく仕事に就いても長つづきせず、短期間でやめてしまうケースも少なくないようです。とくに民間企業ではどうしても経済効率が優先されるため、働く人のペースというよりはその職場環境にあせて作業していかなければならず、障害をもつ人たちを孤立させてしまうことにもつながります。

こうした状況を改善するためには、個々人の能力や技能などを職場環境にあわせるのではなく、障害者の個々の特性として理解したうえでともに働く仲間であると意識づける必要があります。

障害者の雇用は日本ばかりではなく世界各国の課題でもあり、2006年12月13日、第61回国連総会において「障害者の権利に関する条約」(以下、「障害者権利条約」)が採択されました。

この条約は、障害者の就労のみならず、「障害者の固有の尊厳の尊重とその促進」が目的に位置づけられ、「いかなる差別をも禁止する」という条文を盛りこんだ点で画期的なものでした。

2007年9月28日にこの条約へ署名した日本政府は、「障害者基本法」や「障害者差別解消法」といった法律を次々に改正・成立させ、国会における決議を経て2014年1月20日に条約の批准をはたしました。2016年11月現在、日本を含む166ヵ国がこの条約を批准しています。

「障害者権利条約」は全部で50条からなる条約ですが、なかでも第27条には「障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める」(囲み)とあり、障害によって差別を受けてはならないことが明記されています。

障害者の権利に関する条約

第27条 労働及び雇用

締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して開放され、障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい労働市場及び労働環境において、障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。(一部抜粋)

(外務省HPより)

就労への合理的配慮

この条約を批准するにあたって日本の国会は「障害者差別解消法」を2013年6月19日に成立させました。これは障害者の就労にあたって合理的な配慮を拒否することを差別とみなし、これを全面的に禁止するとした障害者権利条約にもとづいて新しく制定された法律です。

身体、知的、精神などに障害をもつ方々は、生活や就労の面でさまざまな障壁に直面しています。車いすを利用して移動する方々にとっては階段などがそれにあたります。就労場所で使う机の高さがあっていなかったり、車いすのままでは入れなかったりするトイレも障壁のうちに含まれます。視覚障害者であれば点字を用いた書類が必要になってくる場面もあるでしょう。聴覚障害をもつ人に対しては手話や筆談が求められます。

しかし、障害者を雇用したことがない事業主にとっては、どのような配慮が障害者の方々のニーズにマッチしているのか戸惑ってしまうケースもあるようです。とくに精神障害は、一見しただけでは障害の特性がわかりにくいことがあるため、厚生労働省は、他の障害とともに「合理的配慮指針事例集」でいくつかの具体的な方法を紹介しています。

  • 就労希望者と採用側の意思疎通を円滑にはかるため、面接などの機会には希望によって本人をよく知る就労支援機関の職員を同席させる。
  • 面接の際、ほかの社員が出入りしない部屋を選ぶ。また、集団面接ではなく、個別に対応する。
  • 就労開始後は本人の混乱を避ける目的で仕事の指導担当者をひとりに決める。
  • 指導の担当者が不在になることも考慮し、所属部署全体でフォローできる体制を整える。
  • あいまいな状況からストレスを感じさせてしまうことがないよう、業務の優先順位を明確にする。業務内容に変更がある場合は、その都度、説明する。
  • ひとりで休憩したほうがリラックスできるとの申し出があった場合は、規定にこだわらず個別に休憩時間を与える。
  • 通勤ラッシュを避ける目的で出退勤時間を弾力的に調整する。

このほかにも就労の継続を目的とした配慮も必要になります。たとえば、通院を必要とする方に対しては1時間単位で有給休暇を与えている企業の例や、長期欠勤がともなうケースであっても欠勤をマイナス要因としてとらえないよう、障害者と事業主側が話しあって精神的なケアをする、といった企業もみられます。

さらに、発達障害や高次脳機能障害をもつ方々に対しては、次のような配慮が行われています。

〈発達障害〉

  • 仕事の指導、報告については、口頭だけでなく作業手順書や日誌などを用いて意思の伝達をはかる。
  • 人混みが苦手な場合には、食堂ではなくひとりで食事ができる時間帯を設ける。
  • 感覚過敏を緩和するため、サングラスや耳栓の着用を認める。

〈高次脳機能障害〉

  • 新しいことを覚えたり、同時に複数の仕事をこなしたりすることが困難な方もいるため、メモを取りやすいようゆっくり話す。
  • 本人が理解しやすいように専用の作業マニュアルを作成した。
  • 繁忙期には、同じ作業を行う社員の数を増やし、本人の負担が極端に大きくなりすぎないようにした。

事業主サイドにはこれらの配慮にくわえ、プライバシーを十分に配慮したうえで採用担当者、職場の上司、ともに働く同僚などに障害の特性を理解させ、支障が生じればそのつど改善していく配慮が求められます。

初出:『精神科医療ガイド2017』NOVA出版 2017.1より