医療機関で子どもたちを援助する専門職

~チャイルド・ライフ・スペシャリスト~

埼玉県立小児医療センター 地域連携・相談支援センター
認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト

天野 香菜絵氏

CLSが担う役割

CLS(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)は、病気と闘う子どもたちやそのご家族を支援するアメリカの認定制度にもとづく専門職です。

国内の医療機関でCLSがはじめて導入されたのが1999年だったこともあり、まだなじみがうすく、現在も全国の30施設に計41名が配置されているにすぎません。たとえ短期的な入院や通院であっても、医療の現場は治療を受ける子どもたちのQOLにも配慮しなければならず、今後はさらに注目されていく専門職のひとつになるだろうと考えています。

病院は治療を受けるための非日常的な空間です。とくに子どもは、聴診器をあてられるだけで不安に感じ、痛みがともなうような処置では、ネガティブな印象だけが残ってしまいがちです。

そこで重要になってくるのが、子どもの年齢に応じた言葉と方法によって治療への理解をうながしていくインフォームド・アセントです。CLSは、子どもたちといっしょに遊びながら、治療や処置がともなう場面での不安をやわらげるとともに、きょうだいを含む家族を支援する役割も担っています。

治療や検査で入院した子どもたちの支援が日本ではじめられたのは、1954年に聖路加国際病院が「病棟保育士」を導入したのが最初だとされています。その目的のひとつは、病棟内におけるノーマリゼーション(非日常である環境を日常に近づけるための支援)です。

幼児期から小学校低学年ぐらいまでの子どもにとっての1年は、おとなとはくらべものにならないほど貴重な時間です。子どもたちは幼稚園や保育園、あるいは小学校に通い、同じ年頃の子どもたちといっしょに遊びながら、社会性を身につけていきます。しかし、日常生活の場を離れ入院している子どもたちは、発達に必要な期間を非日常の場である病棟内ですごさなければならず、生活の支援だけではなく、発達をうながす支援も必要です。そういった背景がある中で、児童福祉や児童心理について専門的な知識をもつ「病棟保育士」の導入がすすめられてきました。

「病棟保育士」が子どもたちに必要な遊びを提供する一方で、CLSは、治療内容と子どもの発達段階に適合したプリパレーション(検査や処置に対する不安をやわらげ、こころの準備をたすける支援)を行い、ディストラクション(子どもが検査や処置を受ける際、絵本などのおもちゃを用いたコミュニケーションで子どもの意識を意図的にそらす)なども行っています。

また、CLSも「病棟保育士」と同じくノーマリゼーションを行いますが、CLSのノーマリゼーションには「メディカルプレイ」と呼ばれる遊びが含まれ、実際の医療器具を使用した工作などで医療器具に慣れ親しんでもらおうとするところが「病棟保育士」との違いになっています。

CLSが所属する医療機関によっても違いはあると思いますが、わたしが在籍する埼玉県立小児医療センターでは、すべての子どもをプレイルームなどに集めて病気や治療方法について説明するのではなく、医師や看護師の依頼を受けたうえで個々の子どもたちに対応しています。

アメリカ発祥のCLS

アメリカにおいて「チャイルド・ライフ・プログラム」が考案されはじめたのは、1920年代のことだといわれています。第1次世界大戦の特需で景気が大いに上向いたアメリカでは、「黄金の20年代」と呼ばれる時期を迎え、国民生活が飛躍的に豊かになっていく中、子どもたちへの人権意識も高まり、病気の子どもたちを心理社会的な視点から支援するプログラムが開発されていきました。

このプログラムは、1970年代から1980年代にかけてアメリカで急速に発展し、1988年になると、子どもたちの術後の経過によい結果をもたらすことも科学的に証明されました。

CLSの資格を取得するには、アメリカやカナダの大学、または大学院でチャイルド・ライフ・プログラムの運営に必要不可欠な分野の科目(子どもの発達・心理・家族関係・医学用語など)を10単位以上取得し、さらにCLSの認定資格をもつ者(Certified Child Life Specialist:CCLS)のもとで480時間以上の臨床実習を積み、認定試験に合格しなければなりません。加えて、アメリカでCLSの資格の発行・認定などを行っているチャイルド・ライフ・カウンシル(Child Life Council)によると、段階的に2025年までに大学院卒であることが必須になってきたり、臨床実習の最低時間が600時間となったりとCCLSになるための必須条件が厳しく変革されていくことが決まっています。

また、病院にいる子どもたちへの心理社会的ケアは、ヨーロッパでも盛んに行われています。イギリスではこれをHPS(ホスピタル・プレイ・スペシャリスト)と呼び、CLSと似たような役割を担って活動しています。

ヨーロッパ全土のとり組みとしては、1988年にEACH(European Association for Children in Hospital:病院のこどもヨーロッパ協会)という組織が設立されました。設立の際に決議した「病院のこども憲章」には、「すべての親には宿泊施設が提供されるべきである」「こどもたちや親たちは、年齢や理解度に応じた方法で説明をうける権利を有する。身体的、情緒的ストレスを軽減するような方策が講じられるべきである」と明記されており、治療を受ける子どもやその家族に対する配慮の高さがうかがえます。こうしたとり組みの背景には、「子どもの権利条約」が大きく反映されていると考えられます。

「子どもの権利条約」を通称とする「児童の権利に関する条約」は、1959年に採択された「児童の権利に関する宣言」の30周年にあわせ、1989年11月20日に国連総会で採択された国際条約です。日本は1990年9月21日にこの条約に署名し,1994年4月22日に批准しています。

「子どもの権利条約」は、児童(18歳未満)を「保護の対象」としてではなく、「権利の主体」としている点に特色があり、「批准国は子の最善の利益のために行動しなければならない」と定めています。

日本の医療現場においても子どもの人権や権利についてはよく謳われていますが、CLSの資格は、現在のところ日本では取得できず、アメリカでCLSの受験資格を得たうえ、認定試験に合格しなければなりません。

初出:『精神科医療ガイド2017』NOVA出版 2017.1より