スタッフの意識の新陳代謝とチームモデルの変化

日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科教授 精神保健福祉士
古屋 龍太氏

地域移行と多職種・多機関連携

精神科病院と地域との連携については、すでに1970年代からその重要性が唱えられていました。精神障害をもつ当事者が、社会に復帰して地域で暮らしていけるようになるには、医師が病気を抑えて地域に戻すという単純なことではなく、多様な連携―病院と地域の連携が必要だといわれていました。しかし、当時は精神障害者の入院隔離収容政策が基本で、法制度も整わず、経済的な裏づけもなかったため、一部の病院の意欲的なスタッフが、手弁当で地域の保健師らと連携しながら支援するレベルに止まっていました。

地域連携がクローズアップされてきたのは、国の政策が退院促進・地域移行に推移してきた背景が大きいと思います。1987年に「精神衛生法」が「精神保健法」になり、当事者本人が自分の意思で入院をする任意入院制度が初めてできました。1995年には「精神保健福祉法」となり、精神障害者は医療の対象としての「患者」であるだけではなく、福祉の対象としての「障害者」であることが明確になりました。また、1997年に精神保健福祉士法が制定され、精神保健福祉士が国家資格となると、その働きを追認して診療報酬が認められ、多くの病院にPSW(精神科ソーシャルワーカー)が配置されるようになっていきました。

こうしたマクロな変化が大きな要因となり、医療スタッフは病院内の職種間連携だけでなく、病院外との連携も意識するようになりました。退院する患者さんはPSWに任せるといった役割分担を行う病院もありましたが、徐々にそれだけではいけないという意識も現場から高まってきました。

2013年の「改正精神保健福祉法」では、医療保護入院の方に関して「院内委員会」(退院支援委員会)をつくり、早期退院を目指してチームで検討することが病院の管理者の義務になりました。さらに、入院時から退院後のことも見据えて「退院後生活環境相談員」の配置も義務化されました。さらに地域との連携については、「地域援助事業者と病院は連携を図るように務めなければならない」と努力義務に止まっていますが、地域の障害福祉サービス事業者や、居宅介護支援事業者(地域包括支援センターほか)など、地域で支援を担う事業者と連携を図るよう明確な方向づけがなされました。これら三つの義務化により、まだまだ型通りの会議しか行われていない病院も多々ありますが、退院支援委員会を中心に院内の退院支援の責任所在をシステム化し、地域事業者と連携しながら地域移行を推進する病院が増えてきています。

「情報の非対称性」とチームモデルの変化

その一方で、地域連携を構築する以前に、病院内の職種間の連携が不十分である場合も見受けられます。特に、看護職とPSWの間に齟齬(コンフリクト)が生まれることが多いように思われます。その理由は、看護師が当たり前に知っている医学的な知識がPSWにはほとんどなく、逆にPSWの知っている福祉制度や施設について、看護師は聞きかじり程度しか知らないといった「情報の非対称性」にあると考えられます。しかし、この違いの本質は、医師や看護師が治療という医療的な視点から当事者を見ているのに対して、PSWは地域移行や社会参加といった福祉的視点から見るという視点の違いであり、医療側は当事者本人をあくまでも「患者」として見ますが、PSWは「生活者」として見るといった違いに発しています。医師や看護師の「医学モデル」と、PSWの「生活モデル」は未だに対極にあるといっても過言ではありません。

この違いを象徴的に表しているのが、医師と看護師の関係が「指示関係」であるのに対して、医師とPSWの関係は「指導関係」にあるということです。医療の場は、医師の指示の下で多職種がチームを組む「マルチ・ディシプリナリー・モデル」のチームが当たり前で、OT(作業療法士)やPT(理学療法士)も基本的には医師の処方箋に基づく指示関係にあります。PSWが国家資格化された時に、PSWは医療とは違う論理で動く福祉職であることから、最終的には「指導関係」と規定されました。これは、PSWが医師に医学的判断の指導を仰ぎながらも、「人と環境の相互作用モデル」の観点から別の判断ができる裁量権を持つことを示しています。

「医学モデル」と「生活モデル」は、当事者本人への視点も、関わり方も、価値観も違います。その職種が一緒に仕事をしていくことでコンフリクト(葛藤・対立)も生じますが、一方で院内にそれまでとは違う「連携」という文化的な素地を誕生させたといえるでしょう。医師は治療については責任をもちますが、病棟での対応は看護師が中心に、地域移行や暮らしに関わる部分に関してはPSWを中心にと、それぞれの職種が対等で横並び的になり、目標とプランを共有しながらお互いの価値の差異を認める緩やかな「インター・ディシプリナリ―・モデル」のチームとして、当事者とも協働する形に変わってきました。

最近では、薬剤師も単に医師の処方箋どおりに薬を出すだけではなく、患者さんに薬の効能を理解してもらう心理教育的な役割を担い、効果的な処方変更(スイッチング)の提案などをしています。管理栄養士も院内で食事を提供するだけではなく、退院後の生活を見越して入院中から患者さんの栄養指導にかかわる、栄養サポートチーム(NST)を組む病院も増えてきています。

初出:『精神科医療ガイド2017』NOVA出版 2017.1より