東日本大震災から5年。その教訓から学べることを教えてください。

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68歳になるわたしは、統合失調症の40歳になる息子と母子でアパート暮らしをしています。6年前に退院した息子は、入退院を繰り返しましたがここ2年ぐらいは入院することもなく過ごしています。
息子との生活が少し安定しているなか、テレビで今年の3月11日で東日本大震災から5年経ったことを知りました。あらためて時の経つ早さに気づかされました。わたしは、まだ大きな震災を経験せずに暮らせてきたことに感謝する思いも抱きましたが、同時に、もし大きな地震がきたときにどうしたらいいのだろう、という不安もあります。
息子はいまでも薬をのみつづけています。もし地震がきたとき、薬がなくなったらどうしたらいいんだろうか、地震の影響で息子が不安定になったときにはどうしたらいいんだろうかとも考えます。
いつくるかわからない震災ですが、震災に備えて日頃から気をつけておけることがあったら教えていただけませんでしょうか。

東日本大震災から学び、
震災に備えて患者さん、
ご家族にお伝えできること。

東日本大震災から5年。
当時の記憶も、多くの方たちにとっては過去の出来事として風化しつつあります。そのようななかで、息子さんが将来直面するかもしれない危機を想定し、日頃からできる備えについて心を砕いておられるご様子に頭が下がる思いです。わたくしの回答が少しでも将来の安心につながることを願いつつ、思いつくままに書いてみたいと思います。

相談者の方も心配なさっておられるように、第一の課題は薬の確保です。かかりつけの医療機関が遠方だと、交通手段も確保できません。しかし、震災時は緊急事態ということで、近隣の医療機関や調剤薬局に診察や処方をお願いすることが可能でした。平時である、いまのうちに家族会組織などとともに行政に働きかけたりし、ご自分の地域がどのような危機管理体制をとっているのかを把握しておかれるといいと思います。また、当時は全国から心のケアチームが派遣され、避難所などで診療を行ったり処方薬を出していただくことも可能でした。ただ、ふだん処方されているお薬がわからない方たちもおられたので、お薬手帳や薬剤情報提供書などは常に提示できるようにしておきましょう。3日分程度のお薬を常に持ち歩くよう心がけると安心です。そのほか、保険証や診察券、場合によってはお金がないからと、受診をためらう場合もあると考えられますが、受診をためらわれている方のために、震災当時、国からはためらわれている方も診療するようにとの通達が出されていました。

もし不安なときは、近くの行政や保健所に、前もってご相談しておいてください。また、震災時には近隣の避難所へ駆け込んで、行政担当者に相談してもよいと思います。公的機関には非常電源や非常時の通信の確保がなされており、避難所も併設されていることが多く、そこには様々な情報が掲示されています。

それから、精神的に不安定になるのでは? とのご心配、もっともです。

震災当時、精神に障がいをおもちの多くの方が、眠り込むのが不安で就眠前薬を服用しなかったり、余震などによる不眠に悩まされました。まずは、周囲の方たちに、夜に薬を服用して休むことを伝え、理解しておいていただくことが大切です。そのためにも日頃から地域の見守り体制をつくっていくように、地域や行政に働きかけておかれるといいと思います。行政では、地域防災計画や要援護者マニュアルなどを作成していますが、これらが震災の際にきちんと機能していたかどうか、各地で検証し、見直しが行われましたので、まずはそういった資料を入手し、他の障がい者関連組織などとも協力しあいながら精査してみてはいかがでしょうか。とくに、福祉避難所については高齢者以外の対象者についての検討が不十分な地域もあるようですし、また、福祉避難所開設の基準であったり、内容についての議論がこれからという地域も多いと伺っています。地域防災計画や要援護者マニュアルなどについては市町村に問い合わせおいてください。

最後に、ほとんどの方が何らかの備蓄を行っておられると思います。被災地の精神科病院でも3日分の備蓄は行っていました。3日間がんばれば、近隣の地域から支援の手が届くとされていました。しかし、あまりに広範囲で大規模な災害だったため、1週間は自力で耐えることを余儀なくされました。体験からも1週間分の備蓄を心がけておいてください。食料の不安が解消されるだけで、人はずいぶん安心できるものです。

あの震災から5年。これを機会に、ご自身の地域ではどのような危機管理がなされているか、同じような心配をおもちの方たちとともに確認し、また、協議していかれますよう、切に願っております。つらつらと書き連ねましたが、少しでもお役に立つところがあれば幸いです。

医療法人 財団 松風会 姉歯 純子

NOVA出版刊、―こころを考え、精神科医療を身近にする情報誌―季刊「あしたへ」2016年春号より