児童・思春期精神科病棟の看護学

兵庫県立大学看護学部 生涯広域健康看護講座 精神看護学 准教授
船越明子氏

児童・思春期精神科病棟における看護ガイドラインの作成

2000年代に入って関心が高まってきた子どものこころの健康は、いじめ、不登校、虐待、自殺、または少年犯罪などとも密接な関係にあるとされ、厚生労働省も2008年には「子どもの心の診療拠点病院事業」(現・子どもの心の診療ネットワーク事業)を立ちあげ、対策を講じようとする動きが出てきました。

看護を専門とするわたしたち(研究者や臨床看護師からなる研究チーム)も2007年度の「科学研究費助成金 若手(S)」を利用して臨床現場での調査(「児童・思春期精神科看護における看護ケア内容および看護技術の明確化に関する研究」)を行った結果、児童・思春期精神科病棟では看護師たちによる子どもたちへのケアばかりか、他職種との連携、さらに子どもの親への対応など、看護領域が多岐にわたることが明らかとなり、特殊かつ非常に高い専門性を必要とすることがはっきりしてきました。

そこでわたしたちの研究チームは、エビデンスにもとづく効果的な「児童・思春期精神科病棟における看護ガイドラインの開発」に着手することになり、2011年度は、2000年以降に書かれた児童・思春期精神科看護などに関する文献の整理と専門家へのヒアリングを行い、試案となるガイドラインを作成しました。

2012年度には、当該領域における認定看護師(日本精神科看護技術協会による認定資格)を対象にインタビューを実施し、試案の妥当性および実用性を検討したうえで、「児童・思春期精神科病棟における看護ガイドライン」(以下、ガイドライン)を完成させることにしました。

2010年度の調査では、児童または思春期の専門病棟を有する18施設のうち、協力がえられた14施設19病棟に勤務する看護師336人にアンケートへの回答を依頼。この結果(有効回答率69.6%・234名)を踏まえて分析していきました。 この調査で明らかになったことは、成人を対象とした精神科での勤務経験と児童・思春期精神科病棟での勤務年数が看護実践の卓越性に関連するという結果です。

成人を対象とする精神科病院に勤務経験がある看護師は、医療チームの一員として複数の患者やその家族への看護を同時に進行させ、他のメンバーの動きや経験、あるいは能力、状況を考慮しながら自分が果たすべき役割を見出すことが児童・思春期精神科病棟の業務でも高いレベルで実施できていることがわかってきました。一方、児童・思春期精神科看護は、小児科とは異なる専門性が必要であり、当該領域の臨床看護経験の積みあげによって看護実践の卓越性が高められているという実態もみえてきました。

さらにこの調査では、児童・思春期精神科看護における主だった看護ケアごとに「困難・疑問に感じていること」を調べ、下表のような回答をえることができました。

① (子どもたちからの)暴言・暴力の対応(に困難・疑問を感じていること)
  • 看護師が心理的な負担を感じる12.0%
  • 看護師自身の感情のコントロール11.2%
② 患児への個別のかかわり
  • 子どもとの関係性の取り方(に困難・疑問を感じる)19.4%
  • 公平に子どもと接すること(同)18.2%
③ 集団へのかかわり
  • グループダイナミックスが生じることで対応が難しくなる19.7%
  • 子どもの個性が1人ひとりことなるため、集団として働きかけにくい16.4%
④ 家族への支援(で困難・疑問を感じていること)
  • 家族が精神面で問題を抱えている15.5%
  • 家族機能および養育状況に問題がある13.0%
⑤子どもを知る
  • 子どもの問題のアセスメント(に困難・疑問を感じている)22.6%
  • 看護課程のプロセスを適切に実行すること(に困難・疑問を感じている)16.5%
⑥ 外泊・就学への支援(で困難・疑問を感じていること)
  • 家族や学校の受け入れがよくない19.0%
  • 外泊によって子どもの生活リズムや精神状態が乱れる9.5%
⑦ 医療チームの一員としてのかかわり(で困難・疑問を感じていること)
  • 医療者間で共通した認識を持ち統一した対応をすること(に困難・疑問を感じる)30.7%
  • チーム活動を行ううえで必要な技能、力量(に困難・疑問を感じる)27.2%

編集部注:船越明子『児童・思春期精神科の看護―ここが大変! を整理してみました』(精神看護 16(4), 57-64, 2013)をもとに編集部が代表的な回答のみを抽出

このアンケート調査の結果から抽出されたこれらの回答は、先のガイドラインに臨床問題(クリニカルクエスチョン)として盛りこんでいきました。